はじめに:財産管理・承継に悩む方へ
相続や老後の備えについて考えるとき、「家族信託」と「資産管理法人」のどちらを活用すべきか?というご相談を多くいただきます。
どちらも専門的な制度ですが、目的や家族構成、資産内容によって適する制度が大きく異なります。単なる「制度の違い」の比較にとどまらず、実務の現場で使われている活用例、制度の法的背景も踏まえながら、それぞれのメリット・デメリット、そして併用の可能性までを分かりやすく解説していきます。
筆者は兵庫県姫路市の行政書士として、実際にご相談を受けている現場の視点から、最新の相続対策情報をお届けします。
家族信託とは?|判断能力に不安がある時に頼れる制度
概要
家族信託(民事信託)は、財産を「信頼できる家族など(受託者)」に託し、その財産から得られる利益を「受益者」が受け取るという仕組みです。
たとえば、認知症を患った高齢者が不動産や預貯金を管理できなくなった場合に備え、生前に管理体制を整える目的で活用されます。
主な特徴
- 委託者=財産を託す人(本人)
- 受託者=信頼できる家族や親族が一般的
- 受益者=利益を得る人(通常は委託者)
メリット
- 認知症対策として極めて有効(成年後見制度の代替)
- 柔軟な財産管理・活用が可能
- 受益権を通じて財産の帰属や管理をコントロールできる
デメリット
- 信託契約書の作成に高度な法的知識が必要
- 登記、税務対応、信託口口座の開設など実務が複雑
- 財産評価や贈与税の取り扱いに注意が必要
資産管理法人とは?|資産の集中と承継に強み
概要
資産管理法人は、個人が所有していた不動産や金融資産などを法人に名義変更し、法人として一元的に管理・運用するスキームです。
中小企業の形態(株式会社・合同会社)で設立され、節税・分割・承継の仕組みを合理的に構築できることから、不動産オーナーなどの間で広く活用されています。
メリット
- 不動産や資産の管理を法人化し、一元的に管理できる
- 株式という形で承継しやすく、相続時の分割もスムーズ
- 家族に役員報酬を払うことで所得分散・節税も可能
デメリット
- 法人設立・運営に一定のコストと労力が必要
- 法人維持のための会計・税務が継続的に必要
- 判断能力の喪失リスク(認知症など)には対応しにくい
参考記事
家族信託と資産管理法人の違いを比較
比較項目 | 家族信託 | 資産管理法人 |
---|---|---|
対応目的 | 認知症・老後の管理 | 節税・資産承継・法人運用 |
法的仕組み | 信託契約に基づく | 法人法に基づく法人運営 |
管理体制 | 受託者が管理 | 取締役など役員が管理 |
節税効果 | 限定的 | 高い(法人税制・役員報酬) |
維持コスト | 中程度 | 中〜高(顧問税理士など) |
設計の柔軟性 | 高い | 中〜高(専門家の設計次第) |
認知症リスク対応 | ◎(委託前に設計) | ✕(本人が意思決定不能になると対応困難) |
よくある誤解と注意点
「資産管理法人があれば信託は不要?」
→✕ 認知症リスクには資産管理法人は対応できません。 法人の代表者が認知症になると、法人そのものの運営がストップしてしまう可能性があります。特に親が100%株主、かつ唯一の取締役(いわゆる1人法人)の場合、法人業務も行えない、株主総会が開けないので取締役の変更もできないという八方ふさがりに陥ります。
「家族信託で全資産を守れる?」
→✕ 家族信託はあくまで「信託した財産」に限って効力があります。すべての資産をカバーするには限界があります。
実務での活用イメージ
📌 事例1:高齢の不動産オーナー
- 家族信託で管理体制を整備(認知症対策)
- 同時に資産管理法人を設立し、承継対象を明確化
→ 家族信託で“運用の安全性”、法人で“承継の効率性”を実現
📌 事例2:相続対策をしたい40代の不動産投資家
- 今は法人で資産を一元管理しながら運用
- 将来の認知症リスクに備えて、特定資産のみ信託設計
→ 信託と法人の組み合わせで、柔軟かつ計画的な承継スキーム
専門家による併用設計のすすめ
家族信託と資産管理法人は、**目的が異なるため「どちらか一方を選ぶ」より「併用する方が強い」**というのが実務の定説です。
- 信託=判断能力リスクの備え、柔軟な財産管理
- 法人=中長期的な資産の管理・承継・節税の器
両者は競合する制度ではなく、補完し合う関係です。
✅ 併用することで得られる効果
- 家族信託で“守り”を固め
- 資産管理法人で“攻め”の節税と承継戦略を
相続設計は“複雑であたりまえ”です。だからこそ、複数制度をどう組み合わせるかという視点が重要になります。
まとめ:どちらが良いかではなく“何をどう守りたいか”で選ぶ
相続や資産承継を考える上で、家族信託と資産管理法人はそれぞれ独自の強みを持っています。
「判断能力の喪失リスクをカバーしたい」なら家族信託。 「資産を集約し、次世代に効率的に承継したい」なら資産管理法人。
そして両方を使えば、さらに強固で安心な仕組みになります。
まずはご自身の財産状況や家族構成を整理し、必要な備えを一つずつ組み立てていくことが重要です。
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兵庫県姫路市の行政書士として、信託契約書の作成支援から法人設立、相続シミュレーション、税理士・司法書士との連携によるワンストップ体制で、安心できる備えをご提案いたします。
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