資産管理法人を設立するとき、不動産を売買ではなく「現物出資」で法人へ移す方法があります。
現物出資を選択すると譲渡所得税や登録免許税を抑えられる場合があり、相続対策や節税の面で注目されています。
一方で会社法による手続きや税務署のチェックをクリアしなければ、設立後に課税トラブルへ発展する恐れがあります。
この記事では行政書士の立場から、現物出資における裁判所・検査役の関与と実務上のポイントを分かりやすく説明します。
資産管理法人と現物出資の基礎
資産管理法人とは
資産管理法人とは、不動産や株式などを法人名義で保有・運用するために設立する会社です。
設立の主な目的は、所得を法人税率で管理して節税を図ること、相続時に資産を株式へ置き換えて遺産分割を円滑にすること、そして経費計上の幅を広げることにあります。
姫路市をはじめとする地方都市でも、オーナー経営者や不動産投資家からの相談が増えています。
現物出資とは
現物出資とは、会社設立時に現金の代わりに不動産などの財産を出資する方法です。
会社法27条(e-Gov)が根拠規定となり、出資物の内容・評価額・割当株式数・出資者情報を定款へ記載します。
設立と同時に法人名義へ資産を移せるため、設立後に不動産を売却するよりも手続きと費用を簡素化できる場合があります。
裁判所・検査役が関与するケース
検査役とは
検査役は裁判所が選任する第三者の専門家で、現物出資財産の価値が適正かどうかを調査・報告します。
弁護士、公認会計士、不動産鑑定士などが選任され、報告書の内容は設立登記の重要資料になります。
検査役が必要となる条件
会社法33条では、次のいずれかに該当すると検査役の調査が必要になります。
- 出資財産の総額が500万円を超える
- 定款記載額と実際の評価額に乖離があると疑われる
- 公正な評価を担保できないと判断される
検査役不要となる簡易評価
不動産鑑定士の鑑定評価書があれば、上記要件を満たしても検査役を省略できます。
鑑定書の作成費用は10万〜30万円程度が相場で、検査役手続きよりも時間とコストを抑えられる場合が多いです。
不動産を現物出資する手続きの流れ
1. 評価と準備
- 不動産の登記簿や公図を確認して対象資産を確定します。
- 不動産鑑定士に評価を依頼し、鑑定評価書を取得します。
評価額が妥当である証拠を残すことで、税務署の否認リスクを低減できます。
2. 定款への記載
定款には出資物の内容、評価額、割当株式数、出資者の氏名・住所を正確に記載します。
専門家が作成した鑑定評価書の数値を転記しておくと後の説明が円滑に進みます。
3. 検査役選任申立(必要な場合)
検査役が必要と判断された場合、所轄の地方裁判所へ申立書を提出します。
申立から選任まで2週間〜1か月、その後の調査期間を含めると全体で1〜2か月かかることが一般的です。報酬相場は数十万円から100万円程度です。
4. 設立登記と不動産名義変更
設立登記では、出資不動産の登記事項証明書や鑑定評価書を添付します。
登録免許税は資本金の7/1000(最低15万円)であり、根拠は法務省「登録免許税の手引」に示されています。不動産名義も同時に法人へ移るため、別個の売買契約は不要です。
税務面のポイント
譲渡所得の扱い
現物出資でも出資者に譲渡所得が課税される可能性があります。
取得した株式の時価が出資不動産の½未満であれば、国税庁タックスアンサー No.3117が定める「みなし譲渡」で時価が収入金額とみなされます。譲渡益が出る場合は確定申告が必要になります。
登録免許税・不動産取得税
法人への名義変更に伴い、登録免許税のほか不動産取得税(土地・住宅3%、非住宅4%)がかかります。各都道府県税サイトで最新の軽減措置を確認してください。
税務署による否認リスク
評価額が実勢価格から大きく離れていると、相続税や贈与税の課税対象になる場合があります。
国税庁「財産評価基本通達」に従い、路線価や鑑定評価書を根拠にして評価額を決定します。
根拠資料を保存しておくことで、後日の税務調査に備えられます。
行政書士が提供できるサポート
- 現物出資スキームの適法性チェック
- 定款・設立登記書類の作成と提出代行
- 不動産鑑定士、税理士、司法書士との連携コーディネート
- 裁判所への検査役選任申立書類の作成補助
- 設立後の許認可・契約書整備に関するフォローアップ
専門家が関与することで、会社法違反や税務否認といったリスクを未然に防げます。
よくある質問(Q&A)
Q1 不動産以外の現物出資でも裁判所の関与は必要ですか
評価額が500万円を超えて公正な評価が難しい場合は必要になることがあります。
市場価格が明確な上場株式などは不要になるケースが多いです。
Q2 検査役手続きはどれくらい時間がかかりますか
申立から選任決定まで2週間〜1か月、その後の調査で1か月程度を見込むと安全です。
Q3 相続対策として法人化は有効ですか
法人株式へ資産を置き換えることで遺産分割の柔軟性が広がりますが、法人維持コストと税務負担を総合的に検討する必要があります。
まとめ
不動産を資産管理法人へ現物出資する手法は、節税と相続対策の両面で有効に働きます。
ただし会社法27・33条に基づく手続きと税務署の視点を同時に満たさなければ、後日の否認リスクが高まります。
鑑定評価書を準備して検査役を省略するか、裁判所手続きで公正さを担保するかを事前に検討することが重要になります。
手続きの複雑さに不安を覚えたときは、行政書士へご相談ください。
無料オンライン相談では、個別の資産状況をお聞きしたうえで最適なスキームをご提案しています。
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