ご注意 本記事は一般情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的なご事情は専門家へご相談ください。
「私がいなくなったあと、この子はどうなるのかしら」──老猫を撫でながら、そんな不安を口にする高齢者の方が、年々増えています。少子高齢化が進み、ペットを家族の一員として飼う人が増える中、飼い主の死後に残されたペットが行き場を失うという問題が深刻化しています。
私は行政書士として兵庫県姫路市で相続・遺言の相談をお受けしていますが、近年「ペットの相続」についての問い合わせが急増しています。この記事では、ペットの法的位置づけから、飼い主が元気なうちにできる備え、そして「ペット信託」という新しい制度までを分かりやすく解説します。
ペットを“物”として扱う法律を理解する
犬や猫といったペットは大切な「家族」。しかし日本の民法ではペットは「物」(法律用語では”ぶつ”と読みます)と定義されます(民法85条)
つまり飼い主が亡くなると、ペットは家や預貯金と同じ「相続財産」となります。
アメリカのハリウッドセレブが、愛犬に遺産を全部相続させた、というような話を聞きますが、日本ではペットは”人格”(自然人や法人などが該当)があるとは認められていないので、ペットに財産を承継させることはできないのです。
ですから遺言がなければ、誰が引き取るかは相続人全員で遺産分割協議をして決めることになります。
行政書士として実感するのは、「ペットは家族」と口では言っていても、相続の場面では「負担」と見なされがちだという現実です。特に高齢の犬や猫、病気を抱える動物は、医療費や世話の手間がかかるため、引き取りを拒否されることが少なくありません。動物愛護管理法44条は遺棄を罰していますが、そもそも遺棄させない仕組みを用意するほうが、ペットにもご家族にも優しいのです。
2 飼い主の死後に起きやすい3つのトラブル
まず多いのが「引き取り手が決まらずケージの中で何日も過ごさせてしまった」というケース。
誰も世話をしないまま保健所へ持ち込まれる例もあります。家族の誰かが猫アレルギーでどうしても引き取れないというようなケースも存在します。
次に、「遺言書で世話代をつけて猫を渡す」と決めたものの、受け取った親族が介護や引っ越しを理由に拒否してしまうこと。負担付遺贈は受遺者が拒める仕組みなので、強制力は意外と弱いのです。
そして三つめは治療費をめぐる相続人同士の対立。持病のあるワンちゃんに数十万円の医療費が必要だとわかると、「なぜ自分ばかり負担しなければならないのか」と感情がこじれがちです。
3 ペットを守る代表的な3つの方法
① 事前に“引受人”と約束すること
信頼できる家族や友人に「もしもの時はお願いね」と頼むのが最もシンプル。言葉だけでは不安なら、簡単な合意書やお手紙を残しておきましょう。
② 遺言書で行き先と世話代を指定すること
公正証書遺言なら、相続開始後すぐに効力が生まれます。遺言執行者も指名しておくと手続きがスムーズです。ただし受け取り側が拒否すれば実現できない点は頭に入れておきましょう。
③ ペット信託を活用すること
最近注目される制度で、信託法を使って飼育費を専用口座に積み、受託者にペットの世話と資金管理を任せる仕組みです。
契約書には飼育に関する具体的な希望(食事・病院・散歩の頻度など)を細かく記載できます。
監督人や受益者代理人を置いておけば、お金の流用を防げるので安心感が高まります。
贈与税や信託登記など専門的な手続きは、行政書士が骨子を整え、司法書士や税理士、弁護士と連携して進めると安全です。
4 今すぐできる小さな一歩
ペットは、私たちの人生に寄り添ってくれるかけがえのない存在です。そのペットが飼い主の死後に困らないようにするには、「飼い主としての責任ある準備」が欠かせません。
遺言書やペット信託といった法的な手段を活用することで、家族の一員であるペットの生活を守ることができます。
それは飼い主の“最後の思いやり”として、大切な行動です。気になることがあれば、専門家に気軽に相談してみてください。準備は早いほど選択肢が広がります。
今夜、家族や友人に「うちの子の将来」について率直に打ち明けてみてください。
手帳やスマホのメモに、ペットの名前・年齢・食事や薬の情報を書き留めておきましょう。
「ペット信託って私にも必要?」と迷ったら、無料相談を承っております。
ペット信託の設計、遺言書の作成、引受人との合意書作成など、幅広く対応可能です。
「うちの猫や犬の将来が心配」「家族に迷惑をかけたくない」──そんな想いがある方は、ぜひ行政書士に一度ご相談ください。早めの準備が、ペットにとって最良の未来を作る第一歩になります。
コメント