子どもが海外在住?国際相続で詰む家族の落とし穴【行政書士が解説】

子どもが海外在住? 国際相続で詰む 家族の落とし穴 相続全般

※こちらは一般情報のご案内です。具体的なご事情は専門家へお気軽にご相談くださいね。

かつては家族が同じ町内に住んでいることが当たり前でしたが、今は違います。子どもが海外で働き、生活の拠点を日本国外に置く時代です。そんな中で問題になるのが「相続手続き」。家族の誰かが海外在住だと、スムーズに進むはずの相続が突然ストップしてしまうケースが増えています。

最近では、相続手続きの一部をオンラインで進められるようになったとの情報もありますが、現実には日本独自の制度や書類要件が大きな壁となり、海外在住者が関わることで手続きが遅れたり、複雑化したりするのが実情です。

この記事では、英語と中国語を堪能に操る、兵庫県姫路市の行政書士である筆者が、実際の事例を交えながら海外在住の相続人がいる場合の注意点と対策について解説します。


なぜ「海外在住の相続人」がいると手続きが止まるのか

ご存じのとおり、日本の相続手続きでは遺産分割協議書に“実印”を押し、印鑑証明書を添付するのが大前提です。
ところが海外在住のご家族は住民票がなく、印鑑登録もできません。
代わりに在外公館(日本大使館・領事館)で発行してもらう「署名証明(サイン証明)」を使いますが、ここで第一のハードルが現れます。(在外公館証明についてはこちら)

  • 予約を取って領事館に出向く
  • パスポートや現地IDを提示し、英文の申請書に署名する
  • 発行手数料を支払い、原本を受け取る

この工程だけで数週間かかることも珍しくありません。
さらに日本側では「署名証明のほかに宣誓供述書を添付してください」と追加書類を求められる場合があり、準備が整うころには1か月、2か月と時間が過ぎてしまいます。

署名証明が整っても待っている“長い郵送の旅”

署名証明付きの協議書をEMSで日本に送ると、早くても1週間、地域によっては3週間以上かかります。
しかも途中で書類が差し戻されれば、再発送のたびに送料と日数が上乗せされます。
あるご家族では、アメリカと日本を行き来した書類が最終的に3往復し、郵送費だけで5万円を超えました。
書類はいつも“あと一歩”のところで止まり、ご兄弟はやきもきするばかり。相続内容よりも“遅れ”が大きなストレスになっていきました。

「オンライン相続」が思うように進まない3つの理由を探る

  1. 本人確認の仕組みが印鑑ベースに残っている
     日本の窓口では依然として印鑑文化が根強く、電子署名やオンライン本人確認が十分に浸透していません。海外発行の電子サインが受け入れられない例もあります。
  2. 書面原本の提出が求められる
     郵送を避ける手段としてスキャンPDFを送っても「現物の宣誓供述書を提出してください」と突き返されることが多いのが現状です。
  3. 時差と生活リズムが連絡のブレーキになる
     「夜にメールを送る→相手の朝に返信→こちらの翌朝に確認」という往復サイクルだけで一週間が過ぎることもあります。

いまから備えておく3つの方法

1 公正証書遺言で分け方を決めておく

公証役場で作成した遺言は検認が不要で、内容どおりに財産を分けられます。
海外の家族に印鑑証明や署名証明を求める必要がなくなるため、手続きがぐっと短縮されます。

2 遺言執行者を専門家に依頼する

行政書士などを遺言執行者に指定しておけば、書類の集約やスケジュール調整を第三者が一括管理できます。
離れたご家族が「いつ動けばいいのか分からない」状態にならずに済みます。

3 署名証明の取得方法と費用を家族で共有しておく

「最寄りの領事館はどこか」「手数料はいくらか」「翻訳は誰に頼むか」を生前にリスト化しておくと、いざというとき慌てません。
一例として、相続人がアメリカ在住の場合、海外公証・アポスティーユ(海外文書が日本でも通用する“国際的な公印”のこと)取得・日本語翻訳にかかる費用として約400ドル程度必要になります。しかし国や州によって異なるためよく確認が必要です。
チェックリストを作成して家族グループで共有しておくと安心です。

まとめ - 距離はあっても“不安”は減らせます

オンラインで何でもできそうに思える時代ですが、相続の現場はまだアナログ色が濃いままです。
だからこそ、遺言で手続きをシンプルにすることと、専門家にバトンを渡す体制を用意しておくことが、ご家族を守る最善の備えになります。
「手続きが半年も止まったら……」と想像するだけで不安が募りますよね。私たちはその不安を少しでも早く解消したいと考えています。初回30分の無料相談を用意していますので、どうぞ気軽にお声がけください。

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