年5万円の草刈り費用を払い続けるだけの田畑──そんな“負動産”を抱えていませんか。
「使わないのに税金と手間だけがかかる」共有名義の農地は、相続後の代表的なお悩みです。
本稿では、なぜ共有農地は売れにくいのかを法律面から整理し、相続放棄・農地バンク・国庫帰属制度という三つの出口策を行政書士の視点でわかりやすくご紹介します。
1.共有農地が売れない3つの壁
1-1 共有者全員一致が原則
不動産の処分は民法251条により「共有者全員の合意」が必要です。
兄弟や従兄弟の誰か一人でも反対すると売却できません。
1-2 農地法3条許可
農地を売るには、所在地の農業委員会から農地法3条許可を取得しなければなりません。買受人は
- 農業に常時従事
- 地域の下限面積(概ね50a)以上を耕作
などの要件を満たす必要があります。詳しくは 農地法3条の許可要件を参照してください。
1-3 固定資産税と管理責任
利用しなくても固定資産税は発生し、草刈りを怠れば近隣トラブルの原因になります。放置による火災・不法投棄の責任も所有者が負います。
2.相続放棄で“負動産”を手放す方法
2-1 制度の概要
相続放棄は家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を提出し、最初から相続人でなかったことにできる手続きです。
公式案内は家庭裁判所「相続放棄の申述」で確認できます。
要点 | 内容 |
---|---|
期限 | 相続開始を知った日から3カ月以内 |
範囲 | 田畑だけ放棄は不可。遺産全体を放棄する |
書類 | 放棄申述書・被相続人と申述人の戸籍・収入印紙800円ほか |
流れ | 申述 → 照会書回答 → 受理通知(成立) |
注意:相続財産の処分や家賃受取を行うと「単純承認」(民法921条)とみなされ、放棄できなくなるおそれがあります。迷ったら手を付ける前に専門家へご相談ください。
3.相続放棄以外の2つの出口策
3-1 農地バンクへ貸し付け
所有者不明農地でも、農地中間管理機構(農地バンク)経由で最長40年間貸し付けが可能です。
手続きは地域の農業委員会が窓口です。
詳細は農林水産省「所有者不明農地の活用」 をご覧ください。
- 年額利用料は小規模でも数千円〜数万円
- 管理を委託できるため草刈り負担が減少
3-2 相続土地国庫帰属制度
2023年開始の制度で、一定条件の土地を国に引き取ってもらえます。
- 農地(農用地区域内)は原則対象外
- 対象でも500㎡で約72万円など高額負担金が必要
制度の詳細は 法務省「相続土地国庫帰属制度」を確認してください。
4.相続登記は義務化!放置は罰則のリスク
2024年4月施行の改正不動産登記法で、相続登記は取得を知った日から3年以内に義務化されました(罰則:10万円以下の過料)。
未登記のまま放置すると名義人が増え、後の処分がさらに困難になります。
詳しくは 法務省「相続登記が義務化されました」をご確認ください。
5.行政書士ができるサポート
お悩み | 支援内容 |
---|---|
戸籍・相続関係が複雑 | 収集・相続関係説明図の作成を代行 |
相続放棄の手続き | 申述書作成・照会書回答サポート |
農地バンク利用 | 申請書・賃貸借契約書の作成と窓口交渉 |
国庫帰属の可否判断 | 条件判定と負担金シミュレーション |
6.今すぐできる3ステップ
- 共有者・地目・面積をリスト化
- 3カ月以内に放棄するか活用するか方針決定
- LINEで書類画像を送信 → 24時間以内に一次診断
使わない田畑を“負動産”のまま次世代へ残す前に、今 行動を起こしましょう。
免責事項
本記事は2025年5月23日現在の法令・公的情報に基づき執筆しています。個別事情により最適な手続きは異なりますので、具体的な案件は必ず専門家へ直接ご相談ください。
コメント