残された配偶者を守る「配偶者居住権」とは?──制度の仕組みと活用ポイントを行政書士が解説

残された配偶者を守る 「配偶者居住権」とは? 相続全般

「夫を看取ったあとも、この家で暮らせるだろうか――」
そんな不安を抱く高齢の配偶者を支えるため、2020年4月に民法改正で誕生したのが配偶者居住権です。
相続発生後も無償で自宅に住み続けられる法定権利であり、売却や立ち退きを迫られる心配を軽減します。


1 配偶者居住権の基本

配偶者居住権は、被相続人が所有していた建物に終身で住める使用権です(民法1030条)。
敷地については敷地利用権が自動で付随し(民法1032条)、建物と土地の両方で居住が保障されます。

  • 取得方法:遺産分割協議・遺言・家庭裁判所の審判
  • 登記:必須(登記がないと第三者に対抗不可)
  • 処分:譲渡・賃貸は原則できない(民法1034条)

参照:法務省「配偶者居住権のしくみ」


2 創設の背景──住まいを巡る課題

従来は自宅が相続財産の一部として高額評価され、配偶者と他の相続人で分け合う過程で売却話が持ち上がる例が多発。
結果、代償金を払えない配偶者が住み慣れた家を手放す事態もありました。
こうしたリスクを減らすため、住居を権利ごと分ける仕組みが導入されました。


3 制度のメリットと留意点

メリット

  1. 終身で自宅に安心して住み続けられる
  2. 建物と所有権を分けることで相続税評価額を圧縮できる可能性
  3. 遺産分割の選択肢が増え、公平な調整がしやすい

デメリット・要注意

  1. 居住権は譲渡・賃貸不可で自由度が低い
  2. 修繕・固定資産税などの維持費は居住権者負担が原則
  3. 老朽化が進むとリフォーム資金の確保が課題

相続税評価の詳細:国税庁タックスアンサー No.4666


4 ケーススタディで学ぶ活用例

ケース① 自宅以外に大きな資産がない夫婦

  • 建物 2,500万円/土地 2,000万円
  • 居住権を設定し、妻が終身住む権利+土地と建物の残余所有権を子が相続
  • → 自宅売却を避けつつ、他の相続人との財産バランスを確保

ケース② 再婚家庭で前妻の子も相続人

  • 居住権を遺言で指定
  • → 夫の死後も後妻が住まいを確保し、前妻の子には金融資産で調整

5 手続きの流れと必要書類

  1. 相続発生(死亡届・戸籍収集)
  2. 遺言確認/遺産分割協議
  3. 配偶者居住権設定登記(司法書士と連携します)
  4. 相続税申告(課税価格が基礎控除超の場合)

主な提出書類

  • 遺言書または遺産分割協議書
  • 相続関係説明図
  • 被相続人の戸籍・住民票除票
  • 固定資産評価証明書 ほか

6 よくある質問

Q. 住宅ローンが残っている家でも利用できますか?
A. 利用自体は可能ですが、抵当権が付いている場合は金融機関の同意が必要です。

Q. 子どもと同居を始めたら居住権はどうなりますか?
A. 合意解除で抹消登記を行うことが一般的です。第三者への賃貸はできません。

Q. 居住権と小規模宅地等の特例は併用できますか?
A. 条件次第で併用可能です。税理士へ個別確認をおすすめします。


7 行政書士ができるサポート

  • 遺言書・遺産分割協議書の作成支援
  • 配偶者居住権設定登記に必要な書類一式の作成
  • 司法書士・税理士との連携によるワンストップ手続き
  • 相続登記義務化(2024年4月施行)への対応アドバイス

まとめ──住み慣れた家に、これからも安心して暮らすために

配偶者居住権は「家を手放さずに済む」という大きな安心をもたらす制度です。
ただし、譲渡不可・維持費自己負担など留意点もあり、すべての家庭に万能ではありません。
ご家族の状況や将来設計に合わせて最適な相続プランを描くために、早めの情報収集と専門家への相談をおすすめします。

住まいは暮らしの土台です。相続をきっかけに住む場所の不安をなくし、安心してご家族の時間を紡いでいきましょう。

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