土地を個人で保有したまま、建物だけを資産管理法人へ移転すると、賃料収入を法人課税に切り替えられるため「節税になりそう」と感じる方が多いです。
一方で、この方法は”認定課税(みなし譲渡課税)”の対象になりやすい点を見落とすと、後から多額の税金を課されるおそれがあります。
ここでは行政書士の立場から、制度の仕組みと安全に運用するステップをわかりやすくまとめます。
要点サマリー
- 建物のみを法人名義にするときは借地権の扱いが最大の論点になる
- 土地と法人間で適正な賃貸借契約と地代の支払いを行わないと認定課税が発生する
- 「土地の無償返還に関する届出書」を提出すると借地権評価を回避できるが、提出期限と同一当事者要件に注意
- 契約書・送金記録・登記・届出を整えたうえで専門家と連携すると安全性が高まる
資産管理法人の基本
資産管理法人は、不動産や株式などを法人名義で保有・運用するために設立する会社です。主な目的は次の四つです。
- 不動産所得を法人で受け取り、所得税の累進負担を抑える
- 修繕費や減価償却費を経費計上しやすくする
- 株式という形で資産をまとめ、相続時の分割を円滑にする
- 家族を役員とし、役員報酬で所得を分散する
なぜ「建物だけ移転」スキームが使われるのか
土地は個人、建物は法人にするメリット
- 法人側で家賃収入を受け取り、所得分散が図れる
- 建物の減価償却や修繕費を法人経費として処理できる
- 将来の相続時に建物の評価を株式でコントロールしやすい
これらのメリットがある一方で、形式と実質の整合性を欠くと認定課税が適用されるリスクが高まります。
認定課税(みなし譲渡課税)の仕組み
制度の概要
税務署は「形式は賃貸や使用貸借でも、実質は贈与または低額譲渡」と判断した場合、所得税法59条(時価課税)や法人税法22条3項に基づき、時価で譲渡があったものとして課税します。これを一般に認定課税と呼びます。
認定課税が疑われる典型例
- 土地は個人名義、建物は法人名義だが賃料を取っていない
- 地代を受け取っているが著しく安い
- 法人が無償で土地を使用し、借地権設定登記も届出もない
- 株主や役員と法人の関係が同族であり、利益移転の意図が明白
これらの場合、個人に贈与税または譲渡所得税、法人に権利金相当の法人税が加算されることがあります。
認定課税が適用されたときの影響
- 贈与税の負担
無償または低額で土地を利用させた利益を贈与とみなされる。 - みなし譲渡所得税
土地所有者が時価で土地を売却したとみなされ、譲渡所得税が課税される。 - 追徴課税と延滞税
税務調査で過去数年分を遡及されると、延滞税・加算税も負担することになる。
リスクを抑える四つの回避策
1. 適正な賃貸借契約と相当の地代を設定する
- 市場地代を調べ、合理的な根拠を契約書に明示する
- 法人が実際に地代を支払い、銀行振込の記録を残す
2. 「土地の無償返還に関する届出書」を提出する
- 借地権を評価しない特例として、土地所有者と法人が連名で提出
- 建物新築から1年以内に税務署へ提出し、10年超保有など要件に留意
(届出様式と解説:国税庁ウェブサイト)
3. 建物移転は売買契約・送金・登録免許税を完備する
- 売買契約書の金額設定を不動産鑑定評価または複数査定で裏付ける
- 代金を法人から個人へ送金し、領収証と入出金記録を保存する
- 登録免許税・不動産取得税を適正に納付する
4. 専門家へ事前相談し、証拠資料を整備する
- 行政書士が契約書と届出書類を整え、手続き漏れを防ぐ
- 税理士が地代水準や贈与認定リスクをシミュレーションする
- 司法書士が登記手続きを適正に行い、名義変更の履歴を明確にする
行政書士が支援できること
- 賃貸借契約書・売買契約書の作成とチェック
- 無償返還届出書や関連書類の作成代行
- 不動産鑑定士・税理士・司法書士との連携によるワンストップ対応
- 認定課税を回避するための地代設定シミュレーション
- 税務調査を見据えた証拠資料の整理と保管アドバイス
よくある質問(Q&A)
Q1 土地と建物を別名義にすることは法律上問題ですか
土地と建物を別々の名義にすること自体は可能です。ただし、借地権の評価や賃料設定を怠ると、税務上の問題が生じます。
Q2 認定課税はいつ指摘されやすいですか
相続税申告や税務調査の際に、地代がない・届出書がないと指摘されるケースが多いです。
Q3 過去にさかのぼって課税される期間はどのくらいですか
通常は5年、重加算税が絡むと7年遡及される可能性があります。
まとめと次のステップ
建物だけを資産管理法人に移す方法は、所得分散や管理効率化に役立つ一方で、認定課税という大きな落とし穴があります。
税務署に実態を説明できるよう、地代設定・契約書・届出書・送金記録を整え、専門家と連携して進めることが安全策です。
建物移転や借地契約の整備でお悩みの方は、無料オンライン相談をご活用ください。実際に資産管理法人を経営する姫路市の行政書士が、リスクを抑えた最適プランをご提案します。
本記事は令和7年6月2日現在の法令・通達に基づく一般的解説です。個別の税務判断は税理士へご確認ください。
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