はじめて資産管理法人を設立するとき、法人形態を株式会社にするか合同会社にするかで悩む声をよく聞きます。
設立費用、対外的信用、運営コストなどを整理すると、目的に合った形態を選びやすくなります。
本記事では行政書士の視点で会社法と公的ガイドを参照しながら判断基準を分かりやすくまとめます。
要点サマリー
- 初期費用と運営を簡素化したい場合は合同会社が有利
- 信用力や将来の第三者承継を重視する場合は株式会社が有利
- 合同会社から株式会社への種類変更は会社法634条で可能
資産管理法人とは
資産管理法人は、不動産や株式など個人資産を法人名義で保有・運用する会社を指します。
主な目的は次の四つです。
- 不動産所得や配当金を法人課税に切り替えて節税を図る
- 相続時に資産を株式へ置き換えて分割を円滑にする
- 経費計上の範囲を広げて資産を効率的に保全する
- 規模拡大に合わせて家族以外の出資・承継に備える
個人より法人の方が経費処理や所得分散に柔軟性があり、姫路市を含む地方でも設立相談が増えています。
株式会社と合同会社の基本的な違い
比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
設立時登録免許税 | 資本金×7/1000(下限15万円)※法務省 | 一律6万円 |
定款認証 | 必要(会社法30条、公証役場で約5万円) | 不要(会社法576条) |
所有と経営の関係 | 分離(株主と取締役) | 一体(出資者が業務執行社員) |
意思決定機関 | 株主総会・取締役会 | 出資者全員の合意(柔軟) |
決算公告義務 | あり(会社法440条) | なし |
社会的信用 | 高い | やや劣る |
上場可能性 | あり | なし |
株式会社を選ぶメリット・デメリット
メリット
- 高い対外的信用
不動産融資や大口取引で「株式会社」という形態が評価される場合があります。 - 役員報酬による所得分散が明確
家族を取締役に登用し、業務実態に応じた報酬を設定すると所得分散が期待できます。 - 株式譲渡で承継しやすい
第三者や親族間で株式を売買でき、将来の出口戦略が柔軟です。 - 代表取締役という肩書が欲しい場合。
デメリット
- 設立・維持コストが高い
定款認証費用と公告コストが毎年発生します。 - 手続きが形式的
株主総会や取締役会の議事録を毎期作成する必要があります。
合同会社を選ぶメリット・デメリット
メリット
- 設立費用が安く維持も簡単
定款認証が不要で登録免許税も6万円に抑えられます。 - 運営が柔軟
出資者全員で合意すれば意思決定でき、議事録の保存義務も限定的です。 - 決算公告義務がない
決算内容を外部へ公開せずに済み、プライバシーを保ちやすいです。
デメリット
- 対外的信用が株式会社より劣る
金融機関や大手取引先が「合同会社=小規模」と判断する場合があります。 - 出資と経営の分離が難しい
家族以外の出資者を迎える計画がある場合は注意が必要です。 - 出資比率が高い場合や、非常勤・無報酬の場合には税務上の扱いが複雑になることもあります。
ケース別の選択指針
合同会社が向いているケース
- 不動産所得を法人へ移し、節税を優先したい
- 家族経営で役員構成をシンプルにしたい
- 初期コストと事務負担を大幅に抑えたい
株式会社が向いているケース
- 規模が大きく、銀行融資や法人間取引の信用が重要
- 複数親族で共有資産を管理し、株式で権利関係を明確化したい
- 将来的に第三者承継や株式譲渡を視野に入れている
合同会社から株式会社へ変更する方法
合同会社でスタートし、後に株式会社へ変更する方法もあります。
会社法634条により「種類の変更」が認められており、登録免許税は資本金×1.5/1000(上限3万円)です。
新たに株式会社を設立し事業を移転させる新設方式を選ぶケースもあります。
将来の変更コストを比較しておくと安心です。
税務面の注意点
- 役員報酬と配当の扱い
株式会社では役員報酬が損金算入され、配当は損金不算入です。
合同会社では利益分配が損金にならず、出資比率に応じて課税されます。 - 同族会社判定
資産管理法人は多くが同族会社に該当します。
留保金課税や行為計算否認規定を確認してください。 - 設立時の現物出資
不動産を現物出資する場合、譲渡所得課税や登録免許税の負担が発生します。
詳しくは「不動産現物出資の検査役制度」を参照してください。
行政書士が支援できること
- 株式会社と合同会社の比較と費用シミュレーション
- 電子定款作成による印紙代4万円の節約
- 設立登記書類の作成と法務局提出代行
- 税理士・司法書士と連携したワンストップ対応
- 家族運営・承継計画に合わせた定款条項の提案
よくある質問(Q&A)
Q1 合同会社でも金融機関から融資を受けられますか
A1 不動産担保や事業計画が明確であれば融資実績はあります。
ただし金融機関によっては株式会社を推奨する場合があるため、事前に相談すると安心です。
Q2 配偶者を役員にすると節税になりますか
A2 実質的に業務に従事し、適正額の報酬を支払うことが前提です。
形だけの役員報酬は否認リスクがあります。税理士へ確認してください。
Q3 設立後に別の資産を法人へ移す方法はありますか
A3 売買、現物出資、贈与など複数手段があります。
税負担と登記コストを比較し、最適な移転方法を選びます。
まとめと次のステップ
設立費用を抑えシンプルに運営したい場合は合同会社、信用力や株式承継を重視する場合は株式会社が適しています。
将来の方向性を紙に書き出し、設立費用・運営コスト・承継方法を比べてください。
判断に迷うときは行政書士の無料オンライン面談をご利用いただけます。
目的に合った法人形態を一緒に検討し、後悔のないスタートを切りましょう。
本記事は令和7年6月1日現在の法令等に基づく一般的解説です。個別の税務判断は税理士へご確認ください。
コメント